ロンドン・ナショナル・ギャラリーは1824年に創立された美術館。ヨーロッパの美術館によくある王室のコレクションではなく、銀行家のジョン・ジュリアス・アンガースタインら個人のコレクションを中心に設立されたのが特徴です。現在、ロンドン中心部、トラファルガー広場にそびえる同館にはティツィアーノ、ルーベンス、フェルメール、ゴッホ、モネまでアート好きには目のくらむような名作が並んでいます。「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は同館所蔵の作品が61点も来日する展覧会。これまで1,2点ずつ貸し出されたことはありますが、これだけ多くの作品がまとめてやってきたのは前例がありません。
この展覧会は新型コロナウイルスの影響で開幕が延期されていましたが、東京展は6月18日〜10月18日、大阪展は11月3日〜2021年1月31日と変更されて開催されることになりました。
入り口を入って振り返るとさっそくティントレット《天の川の起源》が。これはギリシャ・ローマ神話で神々の中の王であるユピテルが息子のヘラクレスを抱きかかえ、妻のユノの乳を飲ませようとしているところです。なぜそんなことをしているのかというとヘラクレスはユノの子ではなく、ユピテルがアルクメネに生ませた子だったのでした。アルクメネは神ではないので、その子のヘラクレスも永遠の命を得ることはできません。そこで女神ユノの乳を飲ませてヘラクレスを神にしようという魂胆です。
ギリシャ神話の神、とくにユピテルはときどきこういった、現代の感覚からすると理解しがたい行動に出ます。なおこのとき、ユノは眠っていたのですが、ユピテルに驚いて目を覚まし、ヘラクレスを引き離そうとします。そのときに吹き出た乳が空に飛び散り、天の川となったのでした。
とらわれの美女を救う勇者というのもよく描かれる画題です。美女と勇者の組み合わせにはいくつかパターンがありますが、アングル《アンジェリカを救うルッジェーロ》はルネサンスの詩人ルドヴィコ・アリオストの叙事詩『狂えるオルランド』からとったもの。画面下の海獣が美女アンジェリカに襲いかかる瞬間、上半身が鷲、下半身が馬という怪物にまたがったルッジェーロが彼女を救いに来ます。アングルはこの主題を好んで描いており、この物語のもとになったギリシャ神話の《ペルセウスとアンドロメダ》も採り上げています。
《聖ゲオルギウスと竜》も美女を救う勇者の物語を描いた一枚です。ある町に住み着いていた毒気を吐く竜に人々は毎日、羊2頭を生け贄に捧げていましたが、じきに羊をすべて捧げてしまい、くじ引きで人間を差し出すことにしました。そのくじにあたったのが王の娘だったのです。そこを通りかかった勇者ゲオルギウスが竜を退治し、姫を救い出しました、というお話です。
作者のウッチェロは遠近法が大好きだったことで知られる画家。地面に生えた芝もグリッドに沿って描かれています。竜の翼の模様や洞窟がある岩山の描写なども面白い。ウッチェロにはこれより30〜40年前に描いた同主題の絵がありますが(パリ、ジャックマール・アンドレ美術館)、パリ版のほうが若描きだけあって素朴な味わいです。
エル・グレコ《神殿から商人を追い払うキリスト》の画面中央で鞭を振るっているのはイエス・キリストです。これは新約聖書に書かれた、神殿の境内で商売をしていた人々を追い払う場面。神聖な場で金儲けとはけしからん、というわけです。「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」など温厚なイメージのあるイエスですが、これは彼が激情を露わにする珍しいシーン。よほど腹に据えかねた、ということなのでしょう。
その他全61点の作品はどれも傑作揃い。モネの《睡蓮の池》やゴッホの《ひまわり》、などはロンドンでもいつも人だかりができている人気作品です。コロナ騒動が始まる直前に日本にやってきました。しばらく本場ロンドンに行くことも難しい今、東京と大阪で名作を堪能できる貴重な機会です。
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June 10, 2020 at 06:00PM
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名作揃いの『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』が上野で開幕! | From Creators - Pen-Online
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