’21年11月25日から28日まで「第78回EICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)2021」がイタリア・ミラノで行われた。’20年は世界的なパンデミックによって開催がキャンセルされたため、2年ぶりの開催となった。’21年1月から開催は発表されていたが、イタリア政府が大規模イベントの開催を許可したのは6月。そこからの準備期間の忙しさは、想像を絶するものだっただろう。現地取材を行なったライター・河野正士氏が、ショーの模様とその意義について総括する。
【レポーター:河野正士】フリーランスのバイク系ライター。ニューモデルのインプレッションから海外のカスタムバイク系イベントの取材まで幅広く活動。EICMA取材は通算で10回を超える。
パビリオン数は前回の約半分…
じつは’21年のEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)には、ドゥカティやBMW、ハスクバーナやガスガスを傘下に収めるKTMグループといった欧州のトップブランドに加え、ハーレーダビッドソンとインディアンというアメリカのトップブランドがブースを出展しなかった。それだけではない。ヘルメットやライディングウエアのトップブランドたちの多くも出展を見合わせた。
もちろん感染症拡大による’20年の開催中止のインパクトは大きい。その後も世界各地で厳しい外出規制が続いたことで、製品開発や部品調達および生産が滞っているのはまぎれもない事実だ。感染状況や経済状況が安定し、もう少し先が見通せる状況になるまで、モーターサイクルショーというプロモーション活動を自粛する動きがあることは理解できる。
イタリアはワクチンの接種率の拡大による感染者数の減少によって、’21年6月よりほぼ全土で外出禁止令が解除。レストランや娯楽施設がオープンになり、政府が定めた感染拡大防止策を施していれば大規模イベントの開催も可能になった。その決定を受け、6月末にEICMAは正式に’21年の開催を発表したのだ。準備の時間は、けっして十分とは言えないだろう。
しかし多数ブランドの出展キャンセルの理由は、それだけではないと感じている。
事実、前回’19年のEICMAでは、ドゥカティは恒例だった盛大なプレスカンファレンスを取りやめ、EICMA開催2週間前にオンラインで発表会を開催。BMWはブース内のフルラインナップ展示をやめ、会場をアリーナに仕立てて、一般来場者に向けニューモデルプレゼンテーションやテクノロジー/カスタム/用品についてプレゼンテーションを行なっていた。要するに、EICMAというモーターサイクルショーに対する考え方の変化の兆しが、すでにあったのだ。
’20年に起こったパンデミックについては、もう説明の必要がない。しかし多くのブランドは、さまざまな活動が制限されたなかで経済活動を行うため、デジタルテクノロジーをフルに活用した新しいコミュニケーションを行なった。そしてそれらは、想像以上に良い結果をもたらしている。日本におけるバイクブームのようなモノは、じつは世界中で起きていて、2輪車および2輪関連ブランドの業績は上がっているのだ。モーターサイクルショーという、これまで大きなウェイトを占めていたユーザーとのコミュニケーションの場をなくしていたにもかかわらず、だ。
バイクの世界に限ったことではないが、パンデミックはさまざまな変化をもたらした。正確には、変化を迫られていたメーカーにとって、次なる一歩を踏み出すきっかけになったのかもしれない。EICMA出展リストを見て、そんなことを感じたのだった。
待ったなしで迫る電動バイクへの移行
EICMAは数年前から電動バイクおよびE-BIKEブランドを積極的に誘致している。その結果、多様なメーカーが出展して賑わっていたが、世界最大級のモーターサイクルショーを謳うのであれば、電動2輪車の最先端技術や、電動2輪車がもたらす新しい都市のカタチや趣味の世界をしっかりと提案すべきではないかと感じた。
じつは、電動2輪車を含めた脱炭素社会の実現に向けた様々な取り組みが世界中で発表されている。ドゥカティが’23年から電動バイクによる世界選手権レース=MotoEに車両を提供するというニュース。モトGPが’27年までに完全な持続可能燃料の導入を目指すというニュース。またピアッジオが燃料大手BPと提携し、インドを中心に欧州やアジア各地で、電動2輪/3輪車に向けた充電ステーションおよび交換バッテリーステーションの提供を含めた幅広いサービス開発を行うというニュース。着脱式可搬バッテリー「ホンダモバイルパワーパックe:」を活用した電動3輪タクシー向けバッテリーシェアリングサービスを’22年前半にインドで開始というニュースなどなど、大きなトピックスに溢れている。
しかしその発表の場にEICMAは選ばれず、また発表の場とするべく努力も行われていない。ガソリン車ブランドも電動バイクブランドも、新型車を展示するだけという状況がもう何年も続いていることが、それを表している。
2輪車を含めたガソリン車が、世界中で’30年頃を境に販売ができなくなっていくことを考えると、航続距離や出力、充電時間やそのカタチだけに価値を見いだそうとするのは、もはやナンセンスなのではないか。EICMAは新しい電動化社会のなかで、どのような役割を果たすのか。早急に決断しなければならないと考える。
実力と風格を備え始めた中国勢
今回のEICMAでは、中国勢が存在感を発揮したのもトピックだ。CFMOTOやQJモーターはその代表格。それにSuperSocoやNIUといった電動スクーターブランドも加わると、その勢力はさらに大きくなる。
またベネリやモトモリーニといったイタリアの伝統的なブランドも、中国ブランドの傘下であったり資本供給を受けていたりする。特に自社QJモーターブランドともにベネリを持つZhejiangQjmotor社は、ハーレーダビッドソンと提携し、自社ブランドの小排気量モデルをハーレーダビッドソンとして仕立て直し、中国で販売すると発表したブランドだ。また今回のEICMAでは、新体制となったMVアグスタとの提携も発表。MVアグスタの新型アドベンチャーモデル「5.5」を共同開発した。
こんな話は世界中にゴロゴロしている。EICMA後に行われたイギリスのショーでは、プジョーモトシクルの親会社であるインド・マヒンドラ社が「BSA」を復刻させ、「ノートン」はインド・TVSモーター社から資金提供を受けて新型車の生産を開始。近々では、ハーレーダビッドソンから独立した電動バイクブランド・ライブワイヤーが、投資会社とともにハーレーダビッドソンおよび台湾のバイクブランド・キムコから投資を受けて、新会社「LVW」をNY証券取引所で株式公開した。これにともないLVWはハーレーおよびキムコと、エンジニアリング/生産拠点/グローバルロジスティクス機能などを活用する戦略的パートナーシップを締結している。
このような混沌のなかで、日本企業は世界を舞台に戦っていかなければならない。とくに電動分野においては、国内では国産4メーカーが、欧州ではホンダ/ヤマハ/ピアッジオ/KTMが交換式バッテリーのコンソーシアムを結んでいるとはいえ、ピアッジオが燃料大手のBPと交換バッテリーステーションの提供を含めた幅広いサービス開発で提携したように、ビジネスの現場は生き馬の目を抜くような厳しい世界で、気を抜くことができない。
いずれにせよ、ここにやって来たブランドも来なかったブランドも、何かしらの大きな決断をしたことになる。そのなかで遠く離れた日本は、2輪車ビジネスのトレンドから遅れてしまったのではないかと心配した。しかしあるブランドの代表は「EICMAは開催されたが、ビジネスは本格的に動いていない。だから心配ない」と話してくれた。それを踏まえて、今後どのブランドが、何を考え、どう動くのか。EICMAにおける各ブランドのアクションを含めて、その動向を注意深く見ていく必要があるだろう。
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