キッスが11月30日、東京ドーム(東京都文京区)で一夜限りの来日公演を行った。来年で結成50年。米国を代表する4人組のハードロックバンドだ。
歌舞伎のくま取りにも似た化粧に甲冑のような衣装。炎を吐き、血をしたたらせるケレン味たっぷりの独特のパフォーマンス。キッスは、ロックコンサートにおける視覚面でのエンターテインメント性を無限に押し広げた。
3年ぶり13度目、そして、これが最後になるはずの来日公演だ。
実は、キッスは2000年に引退会見し、「さらば」と銘打った公演を行っていた。当時、それを受けて「さらばキッス」という記事を産経新聞に書いたが、結局、彼らは引退せず、あれからずっと公演を続けてきた。
20年から公演名を「END OF THE ROAD」とし、新型コロナウイルス禍と闘いながら、この「最後の日本公演」を実現させた。しかも、この公演は、まだ世界各地で続くようだ。
もはや、キッスがいつ本当の「END」を迎えるのか誰にも分からない。ただ、4人のうちオリジナルメンバーのポール・スタンレーは70歳。ジーン・シモンズは73歳だ。重そうな衣装や高げたのような厚底ブーツという独特の衣装で動き回るのは、体にこたえるに違いない。
そう思って訪ねた東京ドームだが、力あふれる演奏とパフォーマンスに、ただ圧倒された。最高のロックショーだった。
客席は開幕前から盛り上がっていた。会場に流れていたBGMがレッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」に切り替わったとたん、なぜか騒然として総立ちとなった。
そして、ジミー・ペイジのギター・ソロが終わったあたりで、大型モニターに、楽屋からステージに向かう4人の映像が映し出され、「いいかい、東京、世界一熱いバンド、キッスだ」という叫び声。大音量の爆発音とともにステージを隠していた幕が落ちた。
すると4人は足元の床ごと天井からつるされた状態で、代表曲「デトロイト・ロック・シティ」を奏で始めた。悪魔たちは、天から降りてきた。
ビートに合わせてドカン、ドカンと何度も火柱が立ち上る。炎といえば、「勇士の叫び」の最後にはシモンズがたいまつを手に登場。口から火を吹くおなじみのパフォーマンスも披露した。
招へい元のウドー音楽事務所によれば、1977年の初来日の際、消防署から、コンサートでどのように火薬を使うか見せるよう求められた。その〝検分〟に、シモンズは自ら参加。火を吹いてみせ、許諾を得た。
シモンズは、「雷神」では大量の「血」を吐くパフォーマンスを披露。これもおなじみだ。血を吐きながら天井につり上げられ、ヘビーでソリッドなベース演奏を聴かせた。
だが、今回、特に際立ったのはスタンレーの元気さか。曲間に何度も「トーキョー!」と客席に呼びかけた。圧巻は、「ラヴ・ガン」。ステージから会場中央に組んだやぐらまで、滑車とワイヤを使って空中移動してみせた。
やぐらのスタンレーとメインステージの3人は、もう1曲「ラヴィン・ユー・ベイビー」を演奏。それからスタンレーは再びステージへ戻り、「ブラック・ダイヤモンド」だ。こうして興奮のうちに、本編は終了となった。
アンコールは3曲。まずはドラム奏者のエリック・シンガーが、ピアノの弾き語りでバラードの「ベス」をしっとりと聴かせた。オリジナルメンバーのピーター・クリスは、この歌をロッド・スチュワートばりのハスキーボイスで歌って魅了したが、シンガーのやや高めの歌声も悪くない。
そして、スタンレーが「俺たちを愛しているか?」と絶叫して始めたのが、「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」。会場にはいくつもの大きな風船が現れた。観客によってバレーボールのように弾き飛ばされ、会場をふわふわと飛び交った。
最後は「ロックン・ロール・オール・ナイト」。爆発音とともに大量の紙吹雪が客席に舞い落ちた。風船といい、70年代のアイドルグループ、ベイ・シティ・ローラーズのようだとおかしくなったが、最後はスタンレーがギターを床に打ち付けて破壊。ロックショーらしいパフォーマンスで締めくくった。
「愛してるよ、お休み」というスタンレーの言葉を最後に、キッスはステージから去った。
やぐらに移動した際、スタンレーはスタンド席に向かって大きく手を振った。実は、そのスタンド席は空きが目立った。
同じ東京ドームで4月に見た韓国のガールズグループ、TWICE(トゥワイス)の公演は満席だった。立錐(りっすい)の余地もないとは、まさにあのことだ。
キッスの東京最後の夜、大阪ではK-POPの音楽賞「MAMA AWARDS」授賞式が開かれていた。韓国の世界的な人気グループ、BTSのメンバー、J-HOPEが参加し、大きな話題だった。
時代の主役は変わる。今の主役がBTSだ。ただ、スタンレーがやぐらで歌った「ラヴィン・ユー・ベイビー」は、1970年代のディスコサウンドを取り入れたダンスナンバー。そのビートの刻み方は、K-POPを含む21世紀の流行音楽にも受け継がれている。
驚いたのは、この夜、若い女性客の姿が予想外に多かったことだ。「さらば」と言ってキッスが世界を2周も3周もするうちに、新しいファンが少しずつ増えたのかもしれない。
あるいは、彼らの音楽の本質的な魅力は、それほど簡単に風化したり、陳腐化したりしないということなのかもしれない。ロックショーは、まだまだ終わらない。(石井健)
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キッス「END OF THE ROAD WORLD TOUR」。11月30日、東京ドーム。2時間。
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