プレミアリーグ20試合で12勝3分5敗の4位。6位に終わった昨季を経て、エリック・テン・ハフ新監督の下、復活気配を示すマンチェスター・ユナイテッドにおいて、評価を再上昇させている男がいる。在籍9シーズン目の左SBで、この年末年始にはCBとしても見事なパフォーマンスを披露した27歳、ルーク・ショーだ。
1月22日のアーセナル対マンチェスター・ユナイテッド(3-2)は、20年ぶりと言える本当に“らしい”両軍対決だった。ここまでの今季プレミアリーグにおけるベストゲームとも言える一戦では、土壇場で勝ち越したアーセナルが2004年以来となる予想外のリーグ優勝へと力強く前進すると同時に、敗れたユナイテッドも、2013年以来となる本格的な優勝戦線復帰へのプロセスが予想以上の速さで進んでいることを印象づけた。
今季からのエリック・テン・ハフ新体制下でユナイテッドが積み上げている「自信」の象徴が、セーブ不能なゴールを当たり前のように決めるようになっているマーカス・ラッシュフォードだとすれば、もう1つの特徴である「レジリエンス」の体現者としてルーク・ショーがいる。やはり優勝候補を相手にしたビッグゲームで、しかも結果を出した1月14日のマンチェスターダービーがチームとショーの何たるかを示している。
持ち前の「回復力」で勝ち取った監督の信頼
ホームにマンチェスター・シティを迎えた一戦(○2-1)で、ユナイテッドは後半にリードを奪われた。1点取れば次々にゴールを陥れるのがシティの通例。その強さは、先制されても最終的には点差をつけて勝っていたサー・アレックス・ファーガソン監督時代の自軍を彷彿とさせる。その点、昨季までのユナイテッドは得点に苦労したままあっさりポイントを落とす試合が多かった。チームの守りも、異例の得失点差「0」だった昨季は6位に終わった要因の1つ。リーグ戦失点数は20チーム中で7番目に多い「57」だった。
だが、今季は違う。接戦を制したシティ戦の前半は安定した守備で試合をコントロール。アーリング・ホーランドへのチャンス供給を断ち、ゴールマシンのような相手CFにボックス内で1度しかボールに触らせていない。そのユナイテッド最終ラインの中央に、本職は左SBのショーがいた。
CBコンビの相棒はクオリティも経験値も高いラファエル・バラン、手前にはカゼミロという新たな盾が存在する好環境ではあった。とはいえショーのCB経験は、駒不足だったチーム事情の中で志願した昨年12月27日のノッティンガム・フォレスト戦(○3-0)から数えて3試合目でしかなかった。昨季途中までのオーレ・グンナー・スールシャール体制下で左ストッパーを任されたことはあるが、3バックの左サイドは新監督が基本とする4バックの左CBとは違う。にもかかわらず、ショーはバランと見事なコンビを披露。的確なポジショニングでカットすべきクロスをカットし、出るべき時には積極的にプレスにも出た。
当日のチームには、新CBのリサンドロ・マルティネスがW杯優勝後の休養から戻っていた。それでもユナイテッド指揮官は、シティとの大一番でアルゼンチン代表CBをベンチに置く決断を下したのだからショーに対する評価は本物だ。イングランド代表DF自身にすれば、持ち前の「回復力」で勝ち取った監督の信頼だ。思えばユナイテッドにおけるショーのキャリアは、2014年に18歳で移籍した当初からレジリエンスというテーマに貫かれている。
ファン・ハール、モウリーニョ…今季も苦境を乗り越えて
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。在住も20年を超えた西ロンドンが第二の故郷。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
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