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Sunday, October 15, 2023

機械を指揮する“振付師”まで登場! 急増するドローンショーの舞台裏 - WIRED.jp

kerisasakti.blogspot.com

夏の風物詩と言えば花火。しかしこの夏、日本の夜空は数百のドローンによって彩られていた。

「世界陸上 ブダペスト」「アジア大会 中国・杭州」に際して催されたドローンショーもそのひとつ。神宮外苑の上空で、国内最大級の規模である約900機のドローンがやり投げや走り高跳びの動きを再現してみせたのだ。

見え方を正確に設計できるドローンショーは、人気キャラクターとも相性がいい。2023年8月の1カ月だけでも「ポケットモンスター」の世界大会やオンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV」の新生10周年記念イベント、東京ディズニーリゾートの開業40周年記念イベントでドローンショーが開催され、各地のファンを沸かせている。海外ではNetflixによる実写版「ONE PIECE」のプレミアイベントで、作中のキャラクターや名シーンがロサンゼルス上空を彩った。

増える屋外のドローンショー

日本でドローンショーが増えている理由について、「世界陸上」のショーをはじめ国内で100回以上のショーを手がけてきたドローンショー・ジャパン代表の山本雄貴はこう語る。

「パンデミックで減っていたお祭りやライブイベントが戻って来たことが大きいです。国や自治体が出す補助金を使えるケースがあることも相まって、人気が高まりました。二酸化炭素や大きな音が出ない点も注目される理由のひとつです」

さらに、ビジネスとの相性もいいと山本は言う。「360度どこからでも同じように見えるショーもつくれますが、一方向からしかきれいに見えないショーも可能です」。つまり、有料席をつくりやすいのである。

プランニングにもスピード感がある。例えば、ドローンショー・ジャパンの制作期間は最短3カ月。「ご要望をいただいてからイメージを固めていきます。紙芝居のようなラフなものから始まり、GIF動画、CG制作といった順に具体化させていきます」と、山本は語る。

Jリーグ30周年記念スペシャルマッチに際して開催されたドローンショーの準備風景。国立競技場にて。

Jリーグ30周年記念スペシャルマッチに際して開催されたドローンショーの準備風景。国立競技場にて。

PHOTOGRAPH: KIRUKE WATANABE/Droneshow Japan Inc.

肝は正確さと許可の取得

一方で大変なのが許可の取得だ。例えば屋外でのショーの場合、ドローンの飛行高度と同等の距離を封鎖する必要がある。規模が大きければ大きいほど、許可をとるために奔走することになるのだ。

また、屋外ドローンショーで利用可能な電波は2.4GHz帯と定められているが、この周波数帯で安全かつ正確に飛行できるドローンの数は500台程度。ドローンショー・ジャパンの場合、1,000台規模のショーを実現するために、ドローンショーでは日本で初めて総務省から5GHz帯の無線LANを用いた実験局免許を取得した。冒頭の「世界陸上」の900台規模のショーが実現したのも、そのかいあってのことだ。

もちろん、正確さも外せない。屋外でのショーの場合、衛星によるGPSと、地上の基地局からの位置情報を使うRTK(リアルタイムキネマティック)という技術を組み合わせて、誤差数センチメートルの範囲で位置を保つ。「風の影響を心配するクライアントさんも多いのですが、ドローンが自動で位置を補正するので、秒速5mまでなら問題なく実施できます」

ドローンショー・ジャパンが独自開発したドローンショー用の機体「unika」。自社開発によってハードとソフトの両方の知見を蓄積し、精度や安全性を高めているという。

ドローンショー・ジャパンが独自開発したドローンショー用の機体「unika」。自社開発によってハードとソフトの両方の知見を蓄積し、精度や安全性を高めているという。

PHOTOGRAPH: KIRUKE WATANABE/Droneshow Japan Inc.

増える屋外のドローンショーに対し、海外も含めて事例が少ないのが屋内のドローンショーだ。その商業化に成功している数少ない企業のひとつが、Verity Studiosである。

14年に創業したVerity Studiosは、世界初となる自律システムによる屋内ドローンショーをTEDカンファレンスで成功させた。その後の10年弱でメタリカやドレイク、セリーヌ・ディオン、ジャスティン・ビーバーといったアーティストのライブのほか、サーカス・エンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のパフォーマンスなども手がけている。

2016年にブロードウェイで公演が始まったシルク・ドゥ・ソレイユ初のミュージカル「Paramour」。Verity Studiosによるドローンの演出も盛り込まれた。

2016年にブロードウェイで公演が始まったシルク・ドゥ・ソレイユ初のミュージカル「Paramour」。Verity Studiosによるドローンの演出も盛り込まれた。

Photograph: © 2016 RICHARD TERMINE PHOTO CREDIT - RICHARD TERMINE

「ドローン振付師」という仕事

「いくつものセンサーによる精度の高い位置情報技術がわれわれの基幹技術であり、特許技術です」。そう語るのは、Verity Studiosでライブイベント担当テクニカル&クリエイティブ・リードを務めるスティーブ・マーセンだ。

Verity Studiosに18年に加わったマーセンの入社当時の肩書は「ドローン・コレオグラファー」。日本語にすると「ドローン振付師」だが、ここでの振り付けとは人に限らず舞台などでの動きの構成を考えることを指すと考えてほしい(ちなみに、スポーツ観戦で描かれる人文字も「コレオグラフィー」と呼ばれる)。

アウトドアショーと同様、マーセンの仕事もクライアントの希望を吸い上げるところから始まる。ただし、ドローンが人と同じ舞台を飛ぶことも多い同社のインドアショーでは、リクエストも少し異なるという。

「『背景と合わないのでドローンの光を黄色にしたい』といった見た目の要望から、『この動きは舞台にいる演者のスピードと合わないから速くしたい』といった動きの要望まで、さまざまなフィードバックがあります」と、マーセンは語る。「基本的に要望にはすべて対応しますが、ハードルになるのはスペースです。屋内の限られた空間で無限にドローンを飛ばすことはできませんし、舞台にいる人間との距離感も考えなければなりません」

人の近くを飛ぶからこそ必要な安全性

Verity Studiosのショーでは、ドローンが“衣装”を着ることもある。シルク・ドゥ・ソレイユと発表したパフォーマンス「Sparked」が、その好例だろう。

このパフォーマンスではドローンの周りにランプシェードのような装飾が施され、まるで魔法のように舞台上を飛び回った。「重さや空気の流れといった空気力学の制約とうまくバランスをとりながら、デザイナーが衣装を考えます。衣装から動きのアイデアが浮かぶこともありますよ」と、マーセンは語る。

Verity Studiosとシルク・ドゥ・ソレイユの初のコラボレーション作品である2014年公開の短編動画「Sparked」より。

Verity Studiosとシルク・ドゥ・ソレイユの初のコラボレーション作品である2014年公開の短編動画「Sparked」より。

Photograph: Verity Studios

また、人の近くを飛ぶドローンショーで最も重要なのは安全性だ。そこで安全性を確保するためにVerity Studiosは、自社製ドローン「Lucie」の重量を約50gにまで抑えている。

「人の周りを飛ぶドローンにとって、軽量化は必要不可欠です。落下の可能性は低いですが、万が一ぶつかっても食パン1枚程度の重さなので、けがをすることはありません」と、マーセンは語る。

振り付けとプログラミングが決まれば、あとはスタートボタンを押すだけの状態にもっていく。「エンジニアがいなくても、ドローンを置いてスタートボタンを押すだけの状態にもっていきます。あとは自律的にドローンが飛んでくれるのです」

国内ではスポーツイベントに需要

まだ黎明期とはいえ、ドローンによるインドアショーは今後は国内でも増えていくだろう。

パンデミックの規制緩和に伴う需要の高まりを受け、ドローンショー・ジャパンも22年7月にインドアショーの提供を始めた。また23年9月には、スペースワンという別の国内のスタートアップもインドアショー事業を開始している。

「特にお問い合わせが多いのは、スポーツシーンです。全国的にアリーナやスポーツ施設がオープンしていることも理由のひとつだと思います」と、ドローンショー・ジャパンの山本は語る。「インドアとアウトドアで安全性や正確性に対する要件が異なるので、これからも技術開発を進めていきますが、すでに市場の広がりは感じています」

一方、アウトドアでは日本のカルチャーを世界に届けていきたいという。「ゲームやアニメといったコンテンツを描けることは、日本のドローンショーの大きな強みです。今後はキャラクターを使ったショーを海外にも輸出していきたいなと思っています」

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