新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」。
2人目は、ファッションジャーナリストとして長年活動し、合同展の主宰など多岐にわたる取り組みを通じてクリエイターらを支援している久保雅裕氏。6〜7月に予定されていた欧州のメンズファッションウィークやトレードショーの中止を受けて、これからの受発注の方法や時期、新しいファッションサイクルを展望する。
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次のメンズコレクション、受発注はどうなる?
今回のコロナショックにより、2020-21年秋冬のオーダーキャンセルも多数発生している。よって生地の発注、生産にも影響を与えており、さらには工場の稼働もままならないことも手伝って、川上から川下に至るまで受発注の萎縮とサプライチェーンの分断が起きている。秋冬全体の市場縮小が目に見えて明らかになってきた。
さらに、21年春夏がどうなるかも喫緊の課題だ。
コロナ禍により、今年6月に予定されていたイタリアとフランスの21年春夏トレードショーは軒並み中止と決まった。同時期にマレ地区を中心に行われるメンズショールームも開催が危ぶまれており、既に9月のウィメンズセールス時期に、メンズも併せて行う計画をしているショールームもあるようだ。
衝撃的だったのが、フランス婦人プレタポルテ連盟、フランスメンズ服飾雑貨連盟、ニット・ランジェリー・スイムウェア連盟の3団体と「トラノイ」「マン」やリゾート・スイムウェアの「スプラッシュ」を含む6つのトレードショーが合同でコミュニケを発表した事。個別にはニュースレターも届いていたが、やはりパリのファッションキャピタルの自負を内外に示すが如く、結束した行動になったのだろう。
準備に相当の時間と労力が必要なファッションウィークやトレードショーは、出展者募集から告知などを含め、早々と結論を出さねばならなかった訳だが、万が一、コロナ禍が5月中に収束するならば、個展やショールームのセットアップは、ギリギリ可能性も残されている。欧州バイヤーのアクセスは2週間もあれば、動き出すことも可能だろう。とはいえ、メンズコレやトレードショーの吸引力を当てにできないため、結果は期待できないかもしれない。
では、春夏の受注をいつ、どこで、どうやって取るか。
ウィメンズより3ヶ月早いメンズは、12~1月納期を守ろうとすれば、遅くとも7~8月中にはオーダーを締めなければならない。ウィメンズの9~10月締め切りという選択肢は、「納期遅れ」という致命傷を負うと考えるブランドも多いだろう。一方で、2~3月納期にずれ込んでも、このような状況下では仕方ないし、小売りや消費者も、それを「特例的に受け入れてくれるだろう」という見方を示す大手ブランドもある。
また本来の「適時」という観点から、「これからはもっと納期を後ろ倒しにすべき」という意見も出てきている。業界全体を考えるなら、それも一考に値するのだが、個別の企業の経営を考えるとそれだけ売掛金の回収時期が後ろにずれ込み、半期だとしても資金繰りに影響することは間違いない。
さて、そんな中、6月30日~7月2日のベルリン、7月22~23日のロンドン、7月24~27日のデュッセルドルフ、そして8月5~7日のコペンハーゲンのトレードショーは執筆時点(4月15日)で、まだ中止を決めていない。特にベルリンとコペンハーゲンは以前からファッションウィークとしてセットアップされてきた経緯もある。ドイツは医療体制が比較的安定しており、他国から重症者の受け入れを行う余裕もある点や、デンマークのコペンハーゲンは8月開催までまだ少し期間があるため、様子見の状態にあるのかもしれない。
もし、この2都市のファッションウィーク開催が可能だとするならば、今年に限っての話になるが、21年春夏メンズの受注会をベルリンかコペンハーゲンで行うという選択肢も考えられる。但し、ベルリンは「パノラマ」が中止を決め、「プレミアム」や「シーク」はデュッセルドルフ、ミュンヘンと連携して7月28~30日に日程変更するかどうかの検討に入っており、その動向が注目されている。
中止となるか予断を許さない状況ではあるが、ベルリンか「CIFF」「リボルバー」が行われるコペンハーゲンに世界のメンズバイヤーを集客させるキャンペーンを、世界のトレードショーと業界関係者が行ってみてはどうだろう。時期的には、ギリギリ納期遅れを発生させない手立てとなるのではなかろうか。まずはオーガナイザーが自主的に決めて、イタリア、フランスの団体などと協議し、取り組むことが肝要だろう。
そしてまだ読めないのが、ウィメンズ時期への影響。コロナ禍が長引けば、9月のカレンダーにも影響が及ぶ可能性も否定できない。備えも必要なのだが、「マーケットがそれどころではない」という惨状が待っているかもしれない。
一方、今回のコロナ禍で加速されるだろうデジタルの取り組みも忘れてはならない。ピッティ・イマジネ社は「Pitti Connect」という、「従来のデジタルプラットフォーム"e-Pitti"とまったく異なり、高度にバージョンアップしたデジタルプラットフォームで多岐にわたる商品紹介とトレードフェアに必要な独自のニーズに応えるために設計されている、フィジカルなトレードフェアを補足する機能以上のツール」をローンチする予定だそうだ。
またパリの共同コミュニケに名を連ねている「VIEW(ビュー)」は、今年6月にカロー・ド・タンプルで初開催される予定だったトレードショーで、ベースにデジタルプラットフォームを備えた合同展という新しいコンセプトのものだという。フィジカルとデジタルの両軸で受発注を行う流れが加速されそうだ。
「適時適品適量」何とか実現したいファッション産業のサステナブル
もう一つ、サステナブルの視点から前述した春夏の立ち上がり時期の後ろ倒しが新しい流れを作るかもしれない。「適時適品適量」という何とか実現したいファッション産業のサステナブル課題だが、まずは季節に合ったMD提案でプロパー販売を行い、まだ十分に販売できる時期にはセールを行わないというサイクルを確立できないだろうか。もしコロナ禍がもたらすプラスの要素があるならば、この立ち上がり期、実需期、セール期全体としての後ろ倒しなのかもしれない。
さらにコロナ禍がもたらすマインドセット・チェンジ、パラダイムシフトにも敏感でありたい。かつて東日本大震災の後、明らかに消費マインドが変わったのを覚えているだろう。多くの家族や友人を失い、またそういう話や映像を目の当たりにして、「大切な人たちと過ごす時間消費が最も愛おしいもの」と気付かされ、生まれたのが「絆消費=共感消費」だった。今回のリモートワークや時差出勤などで多くの人たちが感じたことは、「仕事のスタンダードスタイルにできるのでは」「電車が混んでいないので快適」「家族と一緒に居ながら、あるいは子供の様子も見ながら仕事するという形は、とても人間的」といったポジティブな部分も多かったのではなかろうか。そう、人々の意識に変化が生まれているという事なのだ。
これは世界の先進国でも「連帯感」「命を守る医療従事者への感謝」といったフレーズとともに、人々の意識の底流に変化を生じさせているはずだ。という事は、ファッション消費においても、サステイナブル、ウェルネス、ヒューマンビーイングといったキーワードでのドライブが掛かっていくことになる。「無駄なものは作らない、売らない、買わない」がスタンダードになりそうだ。
今までのやり方が永遠に続くという事は決してない。「セールの前倒し合戦による食い合い」「それに伴う商品価値の毀損」「不要過剰な生産と消費」といった、正すべきだが正せなかった事が「パラダイムシフトにより促されるのでは」と、コロナ後の世界に期待したい。
杉野服飾大学特任教授/ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント/ラジオパーソナリティー
1963年東京生まれ。1986年法政大学社会学部卒。繊研新聞社に22年間在籍し、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当。1999年に大手セレクトショップと組んだタブロイドマガジン『senken h(センケン・アッシュ)』を立ち上げ、2008年にはパリ支局の立ち上げを主導し、初代支局長に就任。2012年に退社後、ベイクルーズのマーケティングディレクターを経て、ウェブメディア『Journal Cubocci(ジュルナルクボッチ)』を設立。Apparel-webやFashionsnap.com、共同通信などに執筆・寄稿し、2017年からスマホのラジオ番組SMART USEN『ジュルナルクボッチのファッショントークサロン』パーソナリティー、2019年からUSEN『encoremode(アンコールモード)』コントリビューティングエディターを務める傍ら、コンサルティング、講演活動も行っている。また別会社で、パリでのトレードショー出展を通じた海外販路開拓支援や日本ブランドの合同ポップアップストアなども実施。国内の合同展「SOLEIL TOKYO」も主宰し、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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April 16, 2020 at 08:50AM
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【コロナ後:トレードショー編】合同展が軒並み中止...今こそ正すべきファッションサイクル - Fashionsnap.com
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