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Thursday, April 16, 2020

デジタルとリアルがもたらすファッションショーの未来。【VOGUE GLOBAL CONFERENCEレポート】 - VOGUE JAPAN

新型コロナのパンデミックを受け、6月に開催予定だったメンズコレクションとオートクチュールコレクションは延期が決定、9月のウィメンズコレクションも先行きが見えない状況だ。でも、ファッション業界は止まるどころかスピードを落とすこともない。

ソーシャルメディアの登場以降、ファッションショーのかたちは大きく変わった。それまでのごく限られた人々に向けてのクローズドなイベントから、世界のどこにいようと参加可能な、より民主的でオープンな場へと大きく変貌を遂げたのだ。

この時代の変化を受けて、ファッションショーの「オーディエンス」にどんな変化があったかを数字とともに示してくれたのは、バレンシアガ(BALENCIAGA)CEOのセドリック・シャルビだ。

「バレンシアガのショーでは、毎シーズン、およそ600名のゲストが招かれます。そしてそれをYouTubeでライブ配信すると、オーディエンスは8000人以上に膨れ上がります。さらに6万人がインスタグラムを通じて視聴し、ツイッター上では30万人にものぼる人々がショーについてつぶやきます。これに動画の再生回数を加算すると、1回のショーでリーチできるオーディエンスは、合計1000万人以上に達します」

デジタルはショーをどう変えるのか。

バルマン(BALMAIN)のクリエイティブディレクターを務めるオリヴィエ・ルステンも同じ観点から、ロックダウンが解除された暁には、ファッションのナラティブにもっと多くの人を巻き込みたいという願望を実現するべく、パリの街中でショーを行いたいと語る。

一方、クロエ(CHLOE)率いるナターシャ・ラムゼイ・レヴィは、物理的なショーとバーチャルなショーの持つ可能性の違いについて二人に賛同しつつ、こう続ける。

「物理的なファッションショーの重要性はこれからも変わらない。そしてデジタルは、その拡声器としての役割をこれからも果たすでしょうね。ただ、オリヴィエが言うように、ファッションショーを体験する方法はこれから変わっていく可能性がある。ある意味、もっとオープンにならなければいけないのかもしれないと感じるわ」

パネルディスカッションでは、視聴者から質問が多数寄せられていた。その中の一つ、「ファッションショーをネットで視聴することで失われるもの、得られるものは?」という現在のファッション業界にとって切実な問いに対して、ルステンはバーチャルリアリティの可能性を含め、自身の展望をこう述べた。

「デジタル上の体験が、感情や感動を薄めるとは思わない。むしろそれは、ファンタジーをさらに上のレベルに飛躍させる力がある。僕たちは、オーディエンスの大部分がデジタル空間にいることを意識する必要がある。だからといって、物理的な体験としてのショーが必要ないといっているのではない。美しい瞬間をその場にいる人々とともに体験できるショーの存在意義が消えることは絶対にないんだ」

ラムゼイ・レヴィも続ける。

「ショーの会場をリアル空間で体験できるゲストは600人だけだったとしても、ランウェイはそれ以上の数の人々によって支えられている。その事実を無視することはできないわ。美しく、誇り高い仕事がそこにはあるのだから。こうした多くの人々が関わってつくりだされるファッションショーは、とても特別な存在であり、オーディエンスにインスピレーションを与え、会話を生むという重要な役割を担っている。私は、こうしたショーの持つ人間的な側面を守っていきたいと考えているの」

感情的なつながりの所在。

バルマンの2020-21年秋冬コレクションより。Photo: Daniele Oberrauch/ GoRunway.com

ショーに限らず、おそらく未来の世界ではデジタル体験と物理的体験の境界がどんどん希薄になっていくはずだ。それを踏まえてシャルビは、今後、より一層の発想の転換が求められるだろうと予測する。

「オンラインでもオフラインでも楽しめるような、人々にとって等しく価値のある体験をオーガナイズする必要が今後さらに高まるだろう。だからこそ、これからのショーは、まずデジタルな観点から設計されるべきだと私は思う」

さらにシャルビは、ファッション業界よりもずっと早くデジタル化が進んだ音楽業界を振り返り、フェスティバルやコンサートなどのライブイベントが、デジタルでは提供できない価値をこれまでに以上に生んでいると指摘する。

「こうしたイベントは、デジタルで消費できる音楽と同じくらいコミュニティにとって重要な体験になっている。ファッション界も、今後さらにテクノロジーとの融合を進めていくことになるはずだ。ブランドは自らのメッセージを伝えるために、ショールームからブティック、そしてファッションショーといったあらゆる空間に、テクノロジーを取り入れていく必要があるんだ」

ルステンはさらに、「感情的なつながり」のあり方も変わっていくだろうと示唆した。

「感情の表現、そしてその所在は常に変化している。それまでは会場での拍手が感情を測るパラメーターだったかもしれないが、今はインスタグラムでの投稿数がそれを代弁している。これは新しいタイプの感情だし、将来的には、さらにその表現の幅や方法が増えていくだろうね」

創造性のサステナビリティをいかに担保するか。

もう一つ、視聴者から核心を突くような質問が上がった。それは、素材や生産方法のサステナビリティはさておき、創造性におけるサステナビリティをいかに担保していくべきか、という問いかけだった。

「誰だって、明日死んでしまう星に住みたくはない。僕たちにはファッション界だけでなく、この世界を守る責任があるから」

ルステンは、襟を正すようにそう答えた。シャルビは、バレンシアガのクリエイティブディレクターであるデムナ・ヴァザリアと彼のデザインチームから2020年と2021年の環境施策のロードマップを受け取ったことを紹介し、デザイナーたちの真摯な姿勢を称えた。

一方のラムゼイ・レヴィは、環境汚染の大きな原因が自分たちにあることを自覚すべきだと指摘する。

「私たちデザイナーは、斬新さを求める市場の欲望に常に応えることが期待されている。でも、その目新しさを最大の価値とするファッションシステムこそが、無駄を引き起こしていると感じるわ。無駄を生まずに新しいクリエーションに挑戦するのは至難の業よ」

既存のシステムは創造性の無駄を生む。

アーティストのリタ・アッカーマンとコラボレーションしたクロエの2020-21年秋冬コレクションより。Photo: Alessandro Lucioni/ GoRunway.com

彼女はまた、業界の既存のシステムが抱える矛盾に対して鋭い問題提起を行った。多くのデザイナーにとってランウェイショーは、ブランドの創造性を立体的に表現できる貴重な機会。だからこそ皆、ショーのために可能な限りの情熱を注ごうとする。しかし一方で、そこから得られる収益は少なく、多くのブランドは収益源を、ショーを行わないプレコレクションに頼っているという矛盾だ。

「これは明らかに創造性の無駄だと感じるわ。私たちデザイナーが1つのコレクションにかけられる時間は本当に短い。そうしてようやく完成した商品を、価値を下げずに販売できる期間もどんどん短くなっている。この矛盾を改善すべきと思うなら、メゾンは今、新しいビジネスのあり方を模索するために立ち止まって考えるチャンスを与えられていると認識した方がいいわ。もちろん消費者にとっても、自分の消費について考え直すいい機会よ。買うという行為はコミュニティに参加し、サポートする行為だけれど、これだけ物があふれた時代に次に自分が買う商品が、本当に意味のあるものかどうかをもっと熟慮すべきだと感じるの」

バレンシアガの2020-21年秋冬コレクションより。Photo: Alessandro Lucioni/ GoRunway.com

シャルビも大きく頷きながら、彼を含むラグジュアリーブランドのCEOにとって、もっとも優先されるべき目標は「デザインをサポートすること」だと強調する。

「私たちCEOはブランドやデザイナーのビジョンを支援するために存在している。そのために何より最優先されるべきはデザインであり、ビジョンがリテールやマーケティングの都合に振り回されてはいけない」

最後にシャルビは、オーディエンスの「インディペンデントな若いブランドが生き残るには何が必要か?」という質問に対して、こう回答した。

「重要なのは、アイデアと創造性。自分らしさを見失うことなく、アイデンティティを信じることが大切だ。そして現代のテクノロジーをどんどん活用して自己表現するべきだ。これが僕からの明日の世界に生き残りたいと望むすべての人に向けたアドバイス。自分の信念に忠実であれば、必ず成功すると信じているよ」

【過去のセッションを振り返る】
創造性の未来
サステナビリティの未来

#VogueGlobalConversations

Text: Steff Yotka


【今後の予定】

4月16日(木)日本時間22:00〜

セッションを視聴する

「Eコマースの未来」

登壇者:アンジェリカ・チャン(中国版編集長)、ヴァージル・アブローオフホワイトルイ・ヴィトン)、ステファニー・フェア(ファーフェッチ)、レモ・ルッフィーニ(モンクレール


4月17日(金)日本時間22:00〜

セッションを視聴する

「実店舗の未来」

登壇者:エマニュエレ・ファルネティ(イタリア版編集長)、ヴィットリオ・ラディス(ラ・リナシェンテ)、ピート・ノードストローム(ノードストローム社長)、ピエール・イヴ・ルーセル(トリー・バーチ

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April 16, 2020 at 06:00PM
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