今や「多様性」という言葉をメディアで見かけない日はないのではないでしょうか。
“多様性とは何か”
“私たちが生きるべき姿はどんなものなのか”
私は時々、社会に溢れる正義と多様性の波にのみこまれそうだ、と感じることがあります。
お前らが大好きな“多様性”って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ。自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされる言葉のはずだろ。
作家の朝井リョウさんは、最新作の『正欲』でそう表現していました。
私は広報という仕事柄、ビジネスにおいてはSDGsの追い風を受けて、「多様性」について何度も語ってきました。それを発信する側にいると、当然のように「多様性」を尊重できる人間と思われているに違いありません。けれど、一個人としての私は、子どもの頃から感じ続けてきた”障がい者が怖い”という意識が拭い去れない――。おそらく障がいを負った痛みや苦しみを必要以上に想像しすぎてしまうからかもしれません。
みんな違ってみんなどうでも良い
そんな私が5月初旬、障がい者が一堂に会するファッションショーの収録現場に立ち会いました。総合演出を務めるのは、メディアアーティストの落合陽一さん。
彼は、ショーの冒頭でこう語りました。
虫や鳥などの生物の表面の多様な色を見ていると、生き物は、他の生き物の外見を互いにそこまで気にしていないんじゃないかと感じます。
玉虫の色は、もちろんそれを食べる鳥は気にするだろうけれど、我々が外見を気にするほどには、お互いに気にしていないんじゃないかと思うのです。“みんな違ってみんな良い”という言葉がありますが、“みんな違ってみんなどうでも良い”というのも真理ではないかと思います。
多様性を認め合うには、人としての成熟が求められていると思い込んでいた私には、救いのような言葉でした。
2日間に渡るショーの収録には、モデルとしてさまざまな人が訪れました。腕や足がない人、脳性麻痺やALSで身体が動かない人、ダウン症の人、子どもやお年寄り、障がいのない人も。
そして、KANSAI YAMAMOTO、ANREALAGEやMIKAGE SHINなど、錚々たるブランドが彼らの装いをアップデート。ガンフラップ(もとは銃を背負う機能)があるデザインをフレアの袖に見立て、腕がないことを自然に見せたトレンチコートや、羽織丈から着物丈まで調整できる車椅子ユーザーのための着物、マグネットやベルクロを取り入れ、簡単に着替えられるTommy Hilfiger Adaptiveのシャツなどもありました。
そういえば、眼鏡はもともと視力を補正する道具でしたが、今やおしゃれアイテムのひとつでもあります。車椅子や義足などのテクノロジーが、その意味を拡張する未来もくるのかもしれません。
今回ご紹介した「True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つ ダイバーシティ・ファッションショー」は、5月30日(日)13時から、日本財団が主催する「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭 -世界はいろいろだから面白い」の演目の一つとして、True Colors Festival YouTube公式チャンネルで無料配信されます(音声ガイドや日英字幕も提供予定)。
「ファッションは、人それぞれ美しいから、それでいい」。落合さんはそう語ります。
彼は今回、ランウェイの演出に“水”を使っています。初めてランウェイを歩くモデルたちは慣れない環境に戸惑ったかもしれません。でも水面は、人や自然の動きに応じて、多彩な色を混ぜ合わせながら揺らめき、光を映し、デジタルを超越した美しさを魅せます。
一番綺麗だなと思ったのは、子どもが義足で走っているときの水しぶきとか、ダンサーが飛び跳ねたときのしぶきや反射する光の美しさ、車輪が水面を滑るときに出る波紋の美しさなどです。
人工的な空間ではありますが、水面が混ざるだけで制御不可能な自然がそこにはあって、自然の中に出てくるテクスチャーは、やっぱり心を弾く美しさがあるなと再認識した次第です。
(落合陽一「True Colors FASHION」エピローグより)
(写真撮影: 冨田了平)
(提供: 日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS)
– INFORMATION –
からの記事と詳細 ( 「多様性」の波にのまれそうなあなたへ。落合陽一がダイバーシティ・ファッションショーで伝えたいこと。 - greenz.jp )
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