世界の99.9%は炭素でできている
――(大野)今年四月に上梓された“Symphony in C”(邦訳『交響曲第6番「炭素物語」―地球と生命の進化を導く元素』化学同人刊)には、鉱物学とはかけ離れた「交響曲」という言葉が入っている、非常に興味深いタイトルですね。 【ヘイゼン】炭素について何かを執筆するとき、テキスト風に性質を紹介することはできます。しかし、それだと面白みがなく、もともと炭素に関心がない人は興味を抱きません。 そこで、炭素という物質にストーリー性をもたせようと試みました。私は長年プロの演奏家として交響楽団でトランペットを演奏していたのですが、炭素はまさに「交響曲」を掌る原子だと気づいたのです。 周期表にあるすべての元素のなかで、炭素は土、火、水、空気にとって必須の元素ですが、交響曲の構成を使うことで、それぞれのセクションで異なる面をみることができます。 第二楽章は「air(空気)」、つまりアリオーソ(抒情的な曲)で、ゆっくりとした楽章です。第三楽章は「fire(火)」で、スケルツォ(急速で快活な曲)になり、コン・フォーコ(情熱をもって)です。最終楽章は、生命の起源に必須の「水」です。 ――生命は炭素から誕生したと考えられていますね。 【ヘイゼン】はい。もし生命を理解したければ、炭素を理解しなければなりません。それは、炭素が生命の起源、進化、分布、宇宙での生命の中核をなしているためです。酸素、鉄、ケイ素をはじめとしたその他の元素はあまりにも特異で適用範囲が狭いのに対し、炭素はすべてに適応します。 この部屋を見渡すと、炭素を含んでいないものを指摘するほうがはるかに簡単でしょう。99.9%のものは、炭素を含んでいます。このように、炭素はわれわれの生活の基本的な元素なのです。 ――生命起源の研究はどれほど進んでいるのですか。 【ヘイゼン】緩やかではありますが、進捗しています。生命起源の研究に人生を捧げる研究者は世界中に何百人もおり、今年八月にもエクアドルで国際会議が開かれる予定です。とはいっても、まだ謎は多い。 現在、私にとってもっとも深い問いは、「惑星は自動的に生命をつくるのか」というものです。すなわち、惑星は火山をつくるように生命をつくるのか。あるいは、地球生物は数少ない生命体として稀有な現象によって生み出されたものなのか、という問題です。 現時点では、生命は地球以外のあらゆるところで生まれていると予想しています。そのため、生命は必然的に生じるものであり、研究によってその必然的な化学プロセスを発見することができると思うのです。 ――生命は進化と絶滅を繰り返します。絶滅するものとそうではない生き物の差はありますか。 【ヘイゼン】微生物が一度ある環境で生存する方法をみつけると、20億年は生き延びるでしょう。安定感のある生物の存在を除去するには、太陽が蒸発してなくなるとか、地球に隕石がぶつかるといった激変が起きないかぎり難しい。 かりに人類が「微生物を抹消したい」と望み、地球上にあるすべての核兵器を使っても、微生物は生き続けます。それほど地球圏の一部として根深く定着しているのです。 ――人類は遠い将来、絶滅するのでしょうか。 【ヘイゼン】多細胞の種はどの種も絶滅に直面してきました。1億年前に存在して現在も変化していない多細胞の種の名前を挙げることはできません。「絶滅」というと、「そこで終わり」と考えますが、同じ遺伝子やたんぱく質が、有機体の一部となって生存し続ける方法もあり得ます。 たとえば、(猿人の)アウストラロピテクスは絶滅しましたが、ある意味でわれわれは、99%同じ遺伝子をもっています。つまり、存続はしているのです。ほとんどの古代の有機体は、遺伝子が組み換わったかたちではありますが、時間の経過とともに伝播されてきたのです。 もし人類が1億年生き延びたとしたら、彼らにとってわれわれは非常に奇妙に映るでしょう。おそらく、あと千年もすれば遺伝子組み換え技術のツールで、何でも修復できるようになっています。 癌もなくなっているし、コロナウイルスもなくなっているでしょうね。そして、遺伝子操作によって、良かれ悪しかれ多くのことをコントロールできるようになる。その結果、未来の人類はわれわれと同じ人類ではなくなっていると思います。
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July 11, 2020 at 04:10AM
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生命の起源は「炭素」をみつめると見えてくる(PHP Online 衆知(Voice)) - Yahoo!ニュース
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