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Monday, September 4, 2023

モーニングショーなど「報道のテレ朝」がジャニーズ性加害を完全無視し続けた理由 - Business Journal

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モーニングショーなど「報道のテレ朝」がジャニーズ性加害を完全無視し続けた理由の画像1
テレビ朝日(「Wikipedia」より/Wiiii

 ジャニーズ性加害問題をめぐり8月29日に記者会見した再発防止特別チーム(座長:林眞琴元検事総長)が指摘した「マスメディアの沈黙」。創業者のジャニー喜多川元社長による性加害についてマスメディアが正面から報じなかったためにジャニーズ事務所の隠蔽体質を強化し、結果として多くの被害者を生む原因になった。多くのマスメディア企業、とりわけテレビ局には「沈黙」しないで伝えるべきことを報道する責任があったという批判だ。

 沈黙していたテレビ局の代表といえるのがテレビ朝日だ。『羽鳥慎一モーニングショー』や『大下容子ワイド!スクランブル』という報道的なワイドショーを看板番組にしていながら、この問題では沈黙を貫いてきた。3月に英国公共放送BBCがドキュメンタリーでこの問題を報道しても問題をスルーした。5月14日にジャニーズ事務所が藤島ジュリー景子社長の謝罪動画と文書を公開した際もスルー。この時にはニュース番組ではテレビ朝日も含めて民放とNHKの全局が藤島社長の謝罪動画を放送したにもかかわらず、まったく扱わなかった。さらに、8月4日に国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家たちが聞き取り調査の中間報告を発表して、多くの番組が報じた際にも同様に沈黙を貫いた。

 そして再発防止特別チームの会見を受け、テレ朝の上記2番組はこの問題を特集で扱った。他局の報道番組に遅れること約2カ月半。テレビ朝日のこうした姿勢を「テレ朝の呪い」と名付けたメディア研究者がいる。かつて日本テレビ報道局記者兼ドキュメンタリー番組ディレクターとして活躍した上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授だ。「テレ朝の呪い」とはなんなのか。また、その「呪い」は解けたのだろうか。水島教授に聞いた。

報道できない「呪縛」のようなもの

――「テレ朝の呪い」とは何か。

水島 私はテレビの報道現場の記者兼ディレクターをしばらくやっていたところから退職し、大学教授になって今年で12年目になります。現在も各テレビ局のニュース番組や報道番組、情報番組を欠かさずウォッチするのを日課にしています。各局の報道内容を比較しながら、それぞれの報道姿勢などを記録・分析するのが役割だと自任していますが、テレビ朝日は他局が一斉にジャニーズの性加害問題を特集する状態になっても、看板番組である2つのワイドショーで扱わないという、異常ともいえるような「沈黙」を貫いてきました。特に国連人権理事会の専門家たちが記者会見して「タレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれた」と発表した時に、被害者である元ジャニーズJr.の人たちが泣いて喜ぶ姿もあったのに、その直後にも完全な無視を決めこみ、報道しませんでした。

『モーニングショー』は同時間帯の視聴率ではトップを走るテレ朝を代表する超人気の情報番組です。新型コロナウィルスの感染防止対策、東京五輪をめぐる談合、ウクライナ侵攻、中国、北朝鮮、ビッグモーター、旧統一教会など、ときどきの旬のテーマを映像で見せて、パネルで論点を整理し、コメンーターの玉川徹氏らによる歯に衣着せない論評がお茶の間で人気を博しています。

 ところがジャニーズの問題についてはまったく触れない。番組を見る限り、不自然なほど扱いません。『ワイド!スクランブル』も同様です。藤島社長の謝罪動画も国連会見も、どちらも1週間で最大のニュースといっても過言ではない内容で、他局のほとんどの情報番組がトップで扱っていたのに、なぜか扱わなかった。よほど扱いたくない事情があるのだろうと思いました。2つの番組とも、どちらかというと堅苦しさが残るニュース番組とは違い、ワイドショーという時間をかけてフランクに議論する形式を生かして、さまざまな角度から議論する番組です。ときにはNHK以上にジャーナリスティックに斬り込む側面があります。

 それなのに、あえてジャニーズ問題だけは報道しない。見ていてもかなり不自然でした。まさに「マスメディアの沈黙」を代表するような「テレビ朝日の沈黙」といっていいくらい。ですから、何か報道したくない、あるいは報道できない「呪縛」のようなものがあると考えて「テレ朝の呪い」と名付けました。

――その呪いはテレビ朝日にかかったままなのか。

水島 一部でいわれるように、テレビ朝日が『ミュージックステーション』という長寿の音楽番組を抱えており、ジャニーズ事務所と抜き差しならない関係になってきたゆえの忖度、そして社内の上層部に利害関係者が少なくないがゆえの忖度が背景にあると見るべきでしょう。その程度がどれほど強いものなのかは、社内にいる幹部クラスじゃないとわからないと思います。ただ、放送されている番組の内容を視聴者として見ているだけでも、外形的に想像することは可能です。ふだんは独自の調査報道を進めて「攻める報道」で定評があるテレビ朝日の報道番組や情報番組が、この問題だけはまったく扱わないで沈黙している。あるいは、たまに扱ったとしても記者会見などで発表される範囲内という必要最小限の報道内容にとどめています。外形的に見ても「不自然さ」が目立つのです。今回、「マスメディアの沈黙」が性加害の隠蔽に加担したと特別チームから指摘されましたが、それを絵に描いたようなものが「テレビ朝日の呪い」です。

 再発防止特別チームが調査報告を発表した翌日の8月30日、『ワイド!スクランブル』がジャニーズの問題を特集しました。初めてのことです。他局の番組同様に長時間の特集VTRを放送した後に、スタジオで出演者たちがコメントしていました。ごく当たり前のことですが、その当たり前がこれまではできなかったのです。では、この放送でテレビ朝日にかかっていた「呪い」が解けたのかというと、実はまだはっきりしないところがあります。中途半端だからです。

コメンテーターから「メディアの沈黙」について指摘された大下容子アナ

水島 テレビ朝日のアナウンサーで「役員待遇」という立場にいるのが大下容子アナです。彼女がキャスターを務める『ワイド!スクランブル』は芸能ネタを扱わず、中国やロシアなどの国際情勢から物価高などの国内問題まで、時事ネタを材料にして解説する硬派の情報番組です。この番組もこれまでジャニーズ問題を扱おうとはしませんでした。役員待遇の大下アナの名前が番組名についていることからテレ朝という会社の根幹に近い番組で、「テレ朝の呪い」という点では根が深いといえます。

 8月30日の放送ではトップニュースとして再発防止特別チームの報告について放送していました。ずっと沈黙を守ってきたこの番組では初めてのことで画期的ともいえますが、不自然な面も目につきました。特別チームによる記者会見の映像では、調査報告書の「マスメディアの沈黙」の部分について読み上げた音声を多くの番組が放送していたのにかかわらず、使いませんでした。問題の根幹として「同族経営」が主な原因であったと強調するようなナレーションを流していました。その後に解説のために表示したスタジオのパネルでも、「マスメディアの沈黙」については比較的小さな文字で書いてあるだけです。番組としては自分たちテレビ局にも責任があるという姿勢をあまり強く示したくはないと思わせるものでした。

「マスメデイアの沈黙」について各局番組のキャスターたちが触れているのに、大下アナは自分からはあえて触れませんでした。しかしコメンテーターの萩谷麻衣子弁護士が番組内で流れたVTRを不自然だと感じたのか、その後で以下のように指摘しました。

「今回、(特別チームが補償などでも)踏み込んだ背景には日本の最も大きなエンターテインメント会社のトップが約60年にもわたり、(相手は)子どもですよね、性加害の対象にしながら、多大な利益を上げてきた。そこで利益はやはり被害者の救済に使いなさいという考え方が出ているなと思いました。ガバナンス不全は同族会社が最大の弊害だと、さきほどのVTRで言ってましたけど、同族会社の弊害というのは通常は風通しが悪いとか内部で問題解決の自浄作用がないとかを言うのですけど、このケースについては、たとえ外部に言ったとしてもそれをもみ消されてしまう。取り上げてもらえない。だから単純な同族会社の弊害ではないということは押さえておかないといけないと思います。

 その点では「マスコミの沈黙」ということも、長きにわたって性加害を放置してしまった、そこへの影響は大きいと思います。マスメディアというのは人権侵害への監視ができる立場にある。この報告書でも企業の人権尊重というのは重要なのだと言っていますけど、マスメディアこそ、その立場に立てる。だからこそ高度の報道の自由が保障されている。そこの覚悟と自覚を問われているということだと思います」

水島 番組側でVTRなどであえて強調しなかった「メスメディアの沈黙」にコメンテーターの萩谷弁護士が触れ、マスメディアの報道の役割を強調した鋭いコメントでした。本来ならばマスメディアの人間、番組の顔であり、番組を進行するキャスターである大下アナが解説しなければならない役割のはずです。それをコメンテーターの一人である萩谷弁護士に言われてしまって、報道側の人間の代表としてスタジオにいたはずの大下アナの面目は丸つぶれになっていました。大下アナは責任をあまり実感していないのかもしれません。あっさりと次のような言葉で引き取りました。心なしかやや慌てたような幕引きでした。

「本当にメディアの沈黙ということで、今回もイギリスのBBCが報道したことがきっかけで国連の人権委員会(筆者註:「理事会」の誤り?)も動くことになって、ということですので、本当に私たちも健全な緊張感をもって、はい、いい方向に向かう。そのきっかけにしなければならないと思います」

水島 このあたりは報道の大ベテランであるはずの大下アナにしては、あまり自分ごととして考えている感じがないというか、かなり他人行儀な言い方でした。他局ではキャスター自身も「マスメディアの沈黙」については、反省する言葉を述べたり、今後の決意を宣言するようなコメントを述べたりするなどしています。それに比べると、大下アナの言葉はとても中途半端な感じでした。

 こうしたところを見ると、今回、これまでの「テレ朝の呪い」が完全に解けたのかと問われれば、はっきり「イエス」とは言えないものがあります。テレ朝にはジャニーズ問題を報道しにくい「何か」があるらしいことは、これまでのこの問題の扱い方からも明らかです。観察してみると「テレ朝の呪い」は情報番組だけでなく、看板ニュース番組である『報道ステーション』にも及んでいると感じています。こちらはさすがにニュース番組なので、その日に行われた記者会見などをまったく扱わないというわけにはいきません。少しは報道するのです。

 でも、ふだん他局を出し抜くスクープ報道を果敢に連発している『報道ステーション』にしては、かなり消極的というか精彩を欠いていました。番組独自に他の番組にはない証言を取材して放送するというような積極的な姿勢は見られません。NHKから鳴り物入りでテレ朝に移って看板番組を任される大越健介キャスターも、いつものジャーナリストとしての豊富な経験から繰り出す鋭いコメントを封印し、どこかギクシャクした感じを漂わせていました。そして、ようやく再発防止特別チームの記者会見の報道では、かつてない神妙な表情で「被害者の痛み」に言及したのです。

――呪いから抜け出すにはどうすればいいのか。

水島 まずは、これまでの「マスメディアの沈黙」を自分もつくったという過去をしっかり認めることです。その上で、しっかりと反省することです。そういう意味では「報ステ」の大越キャスターのコメントはこれからのテレ朝の番組に少し希望を感じさせるものでした。

「大いに自省」と低姿勢だった『報ステ』大越キャスター

水島 『報道ステーション』は、再発防止特別チームの会見映像に街の人たちの声に加えて長編のVTRを編集していました。それだけにとどまらず、性加害問題の被害者の一人である橋田康さんにインタビューした映像も加えました。初めてこの問題で独自の取材映像を放送したのです。橋田さんは夕方に日テレとTBSのニュース番組に生出演していたのですが、その橋田さんを捕まえてわざわざインタビューをとったことには、なりふり構わない執念を感じました。その後でスタジオで調査報告の内容をパネルでまとめて解説しました。

 とりわけ「マスメディアの沈黙」については番組として重要だと考えたのか、調査報告書の中の一文「ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組に出演させることができなくなる危惧から、ジャニー氏の性加害報道を控えたと考えられる」という部分をアナウンサーが読み上げて、一言一言の言葉を噛みしめるように伝えていました。その後に大越キャスターが反省の言葉をカメラに向かって語ったのです。

「すぐれたタレントを送り出す一方で、絶対的な力を背景にジャニー前社長が暴走していった経緯が、この調査報告書では明らかになりました。そして、その背景の一つにテレビなど『マスメディアの沈黙』を指摘し、事務所が隠蔽体質を強めることにつながったとしています。私たち自身、長年、ジャニー前社長をめぐる風評を知りながら、『特殊な世界の出来事』だと注意をおろそかにしてきた面がなかったか、大いに自省しなければならないと考えています。被害者の痛みを心に刻みながら、今後の教訓としなければならないと思っています」

水島 この夜の『報道ステーション』は大越キャスターをはじめとして、反省に終始しながらこの問題を伝えていました。

抑えていたコメント力を発揮した『モーニングショー』玉川氏

水島 8月30日朝の『モーニングショー』はメインキャスターの羽鳥慎一アナが休みでした。司会の代役をテレ朝の野上慎平アナが担当しました。再発防止特別チームの会見などの映像を見せてからスタジオのパネルで問題を整理。野上アナは番組コメンテーターである玉川徹氏に話を振りました。玉川氏がこの問題についてテレビで話すはこれが初めてのことでした。先日、テレ朝を定年退職したばかりで報道の仕事は百戦錬磨といえる玉川氏はやはり「マスメディアの沈黙」という点に注目し、コメントもいつも以上に熱を帯びていました。

 玉川氏は原発問題や旧統一教会にたとえていました。報道する側の人間が実態を「わかっていた」のに「自分の仕事ではない」と考えて本気で報道してこなかった「不作為」があったと反省をこめて話していました。

「メディアの責任を報告書でも指摘されているのですけど、こういう記述がありますね。『テレビ局をはじめとするマスメディア側としてもジャニー氏の性加害を取り上げて報道するとジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧からジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられる』と。こういうふうな部分も『(実際に)あったんだろうな』と思います。僕も少なくとも週刊文春の裁判の後は事実認定されていることなので、それは知っているわけですよ。だけど、僕も含めて『それをやるのは僕の仕事じゃない』と思っていたところがある。そういうふうに間接的に逃げていた部分というのがあるのかなと思います。僕は原発の事故の問題で、原発に危険性があるということを事故の前から多くのメディアの人間がわかっていたにもかかわらず、それを積極的に報道できなかった結果としてあんな(福島第一原発の)事故が起きてしまったという思いを強くもった。にもかかわらず『(ジャニーズ事務所の)この問題は自分の仕事ではない』と思っていた人も、報道関係者の中に多かったのじゃないかなと思います

水島 自分たち日本のテレビ局などマスメディアの前に先鞭をつけてきた週刊文春やBBCに敬意を払う発言でした。日本の報道関係者、テレビや新聞は他社の仕事について引用したり、評価したりということを潔しとしない面が強いのですが、ジャニーズの問題でテレビの人間がこれほど率直な言葉で他メディアの仕事を高く評価した、かなり珍しい出来事だったと思います。

「この後、ジャニーズ事務所が会見をするのだと思います。(中略)会見に出る僕らの側が(ジャニーズ事務所側に)石を投げる資格があるのかというのも同時に考えます。その会見に多くの記者が出ると思いますけど、テレビも含めていろいろなメディアが。でも、石を投げることができるのは、もしかしたら、週刊文春だったり、BBCだったり、フリーのジャーナリストとしてこの問題を追及しようとしてきた人だけかもしれないとも感じたりします」

水島 テレ朝を代表する情報番組『モーニングショー』が初めてこの問題を特集したことで、テレ朝をがんじがらめにしてきた呪縛がようやく解け始めたといえるかもしれません。とはいえ『ワイド!スクランブル』に垣間見えたようにまだギクシャクした面が根強く残っています。それでも今後に予想されるジャニーズ事務所の記者会見などではテレビ朝日は他局と同じように忖度なく報道していくのだろうと思います。

 問題はこの後です。『モーニングショー』や『報道ステーション』に代表されるように、テレビ朝日は報道が最大のウリの放送局です。ところがジャニーズ問題の報道では、どちらの番組もこれまで独自取材をしてきませんでした。週刊誌はおろかTBSや日テレ、NHKにも大きく後れを取っている状態です。報道がウリという本来のテレビ朝日の番組姿勢であれば、もっともっと攻めた番組づくりをすべきだと思います。それが見られるようになって初めて、「テレビ朝日の呪い」が解けたといえるのではないでしょうか。

 テレビ各局は会社としての声明をホームページなどに公表しています。テレビ朝日も「テレビ朝日グループでは、従前より、人権尊重を明確に掲げて事業活動を行っておりますが、調査報告書に盛り込まれたマスメディアに対する指摘を重く受け止め、今後ともかかる取り組みを真摯に続けてまいります」とコメントしています。子どもたちが被害者になってきたこの問題について、テレビ朝日は他局に追いつけるのでしょうか。「報道のテレ朝」らしい本気をそのうちに見せてくれるのでしょうか。それが達成できた時に初めて「テレ朝の呪い」という呪縛から解放されたことになるはずです。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

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