雨宮天のディナーショーへようこそ
会場となった大広間には、白いテーブルクロスが掛けられたいくつもの円卓がフロアを敷き詰めるように並べられている。スーツやジャケット、ドレッシーなワンピースなどを着用した青き民(雨宮ファンの呼称)たちがかしこまった様子で円卓を囲み、ショーに先立って供されたフルコースディナーの余韻を楽しみながら開演を今か今かと待ちわびていた。
不意に広間の明かりが落とされ、無人のステージが深紅の照明で染め上げられると、場内のスピーカーからおもむろにドラマチックなサウンドが鳴り響く。それは、雨宮自身が作詞作曲を手がけた渾身の王道演歌ナンバー「初紅葉」のイントロだった。そして客席後方の扉にピンスポットライトが照射され、そこへ深いブルーを基調とした花柄の振袖に身を包んだ雨宮が姿を現すと、場内は割れんばかりの喝采で埋め尽くされる。円卓のゲストたちに向けて深く一礼した彼女は、寂しげなアコーディオンの音色に導かれるようにしずしずと歩を進めながら「右手に光る 銀の鋏」としめやかに歌い始めるも、その足取りはまっすぐステージへは向かわない。雨宮は歌いながら円卓と円卓に挟まれたわずかな隙間を縫うようにゆっくりとフロア中を練り歩き、至近距離の青き民たちに手を振り笑顔を振りまいていく。
フロアの中腹あたりにたどり着いたところで1コーラス目を歌い終えると、雨宮は間奏に乗せて「皆さんこんばんは。雨宮天のディナーショーへようこそお越しくださいました」と弾ける笑顔で挨拶。「こんなに至近距離で歌わせていただくことがなかなかないのですごくドキドキなんですが、皆さんの笑顔を見てすごく安心しています」「どうか目が合ったらニコッと……合わなくても(笑)、ニコニコしていただけるとうれしいです」といたずらっぽい表情で語りかける。そして間奏が明けると、再びたっぷりとしたボーカル表現で悲恋の物語を歌い上げ、たどり着いたステージ上で改めて深く頭を下げた。
いつかどこかで着たいと、長年思い続けてきた着物
続くMCでは、スマートカジュアルのドレスコードが指定された客席を見渡して「こうやって見ると、皆さん重役みたい(笑)」とほほ笑み、さらに自身の周辺スタッフについても「音楽チームやライブチームの人たちって、髪色や髪型が派手な人が多いからなのか、スーツを着ると殺し屋さんっぽくなるんですよね」と語って爆笑をさらうなど、普段のライブやイベントとは異なる光景を新鮮に楽しんでいる様子の雨宮。ショーはその後、過去4回の「雨宮天 音楽で彩るリサイタル」でカバー歌唱された歌謡曲を対象に行われたリクエスト投票企画で最も票を集めた上位2曲「恋におちて -Fall in Love-」「あなたに逢いたくて ~Missing You~」や、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露されたアコースティックアレンジ版の「永遠のAria」が次々に繰り出されていく。繊細なバラードからアグレッシブなナンバーまでを変幻自在に響かせる儚くも芯のある官能的な歌声で会場の空気感を塗り替え続けたのち、雨宮は「ここからまた皆さんの近くに行きたいと思います」と宣言。再びステージを離れ、フロアを練り歩きながら軽妙なトークを展開し始めた。
円卓に着いている青き民たちの鼻先を次々に通過しながら、雨宮も思わず「近すぎますよね(笑)」と照れ笑い。観客の服装や所持アイテムなどにも細かく言及しながら密なコミュニケーションを図りつつ、「キレイなところだけを見て帰ってくださいね。今日の思い出を誰かに話される際は『雨宮天は写真より100倍くらいキレイだったよ』と言ってくださるとうれしいです(笑)」と冗談交じりの要望を口にして大喝采を巻き起こした。さらに自身が着用する着物についても触れ、「これは私が成人したときに母に買ってもらった私物です」と説明。いつかどこかで着たいと長年思い続けてきたものの、その機会が一向に訪れず、今回ついに10年越しで念願が叶った品なのだという。彼女は昼の第1部では晴れ着風、夜の第2部ではモダンな着こなしと、着付けのテイストを昼夜2部で変えていることも併せて明かした。
私からみんなへの、いつもの恩返し
続いてテレビアニメ「銀魂」初代オープニングテーマのTommy heavenly6「Pray」のカバーを経て、雨宮初の自作曲である「火花」でショーはクライマックスを迎える。雨宮はこの曲を作曲した当時のことを振り返り、「自分で曲を作るきっかけとなった大切な曲」だと改めて述懐。そう前置きしたうえでこのピアノジャズテイストのムーディなAORナンバーを歌い上げ、その妖艶な歌声で聴衆を魅了した。
最後のMCで彼女は「この近距離で目が合うと、(シリアスな曲を歌っていても)ついニヤニヤしちゃう(笑)。でもそれがすごく幸せだなと思ったりして、本当に温かい時間をいただきました。青き民との時間は、終わる頃にはいつも宝物になってくれるなあと思います」と改めてファンに感謝の意を伝える。そして「次に歌わせていただく曲はですね、私からみんなへのいつもの恩返しじゃないけど、プレゼントみたいになったらいいなあと思って歌詞を書きました」との言葉に続いて、雨宮自身が作詞作曲を手がけたという新曲「Oh, it's so dreamy!」をラストナンバーとして披露した。
大磯プリンスホテルという披露の場にちなんで“大磯”をもじった空耳的なタイトルが付与されたこの楽曲は、本人いわく「ある日見た夢の中で流れていた曲がサビメロの元になっている」のだそう。ローズ系の甘いエレピサウンドとワウギターの軽快なカッティングが耳を引くメロウなミディアムポップチューンで、「コース料理とグラスで特別な時間にしよう」という明らかにディナーショーを意識したノベルティ度の高いフレーズも印象的だ。そんな1曲を晴れやかな面持ちで歌い終えた雨宮は、腕を広げて客席に深く一礼。鳴りやまない盛大な拍手の中、満面の笑みで手を振り続けながら舞台袖へと消えていった。
セットリスト
雨宮天「LAWSON presents 雨宮天ディナーショー 2023」2023年11月3日 大磯プリンスホテル メインバンケットホール
01. 初紅葉
02. 恋におちて -Fall in Love-
03. あなたに逢いたくて ~Missing You~
04. [第1部]PARADOX(THE FIRST TAKE ver.) / [第2部]永遠のAria(THE FIRST TAKE ver.)
05. [第1部]魂のルフラン / [第2部]Pray
06. 火花
07. Oh, it's so dreamy!
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